飲食業に携わる奥様は、キッチンへのこだわりも人一倍。「動線を始め、使いやすさをとことん考えました」。大型食洗機やコンポストなどを組み込んだ造作のアイランドキッチンには、ダイニングテーブルを隣接させていて、料理のサーブは楽々。壁側の収納との間の通路の幅はあえて狭めにとったことで、作業がスピーディに進む。
「以前はLDKがそれぞれ別々だったので、キッチンにいると孤立感がありましたが、ひと続きの空間は機能的にも心理的にも快適ですね」と奥様。「家族の誰かが1人で食事をする時も、料理を作りながら一緒にいられますし、ホームパーティを開く時も、準備の段階からお客様とおしゃべりできますし」と、自然に笑顔がこぼれる。
さらに、キッチンと洗面所を近いレイアウトにしたことと、洗面所の隣に洗濯物をたっぷり干せるランドリースペースを設けたことで、ムダな動きがなくなって「家事は本当にストレスフリーです」。家族とのくつろぎの時間を、ゆったり楽しめるようになったそう。
Iさんの家の心地よさは、素材へのこだわりによるところも大きい。LDKの床を覆うのは、木目が美しいオーク材の“パーケットフローリング”。寄木を市松模様に組んだ床で、昔の学校を思い起こさせるレトロな雰囲気が漂う。「どこか昭和なテイストが好きなんです。天井や造作キッチンに貼ったラワン材や、真鍮製のドアノブもそうですね」とIさん。モダンな空間にこうした“昭和感”をミックスすることで、ほっとする温もりを醸し出している。
床に加えて、家具や洗面台のトップなど、家のあちこちにオーク材を多用。とりわけリビングは、TVボードやセンターテーブル、ソファのフレームなど、オーク材の家具で統一されている。L字に置かれた大きなソファは、家族みんながついうたた寝してしまうほど快適だそう。
また、壁は調湿機能もある漆喰塗りで、わざと粗い感じに仕上げて質感を出してもらった。上品なライトグレーの色合いが、オーク材とぴったりマッチして、落ち着いた雰囲気を生み出している。
味わい深い素材に囲まれ、どこにいても家族の気配が感じられる家。「疲れていても、家で過ごしているといつの間にか癒されます」と語るIさん一家の絆は、これからますます深まっていきそうだ。
心地よい家族の関係
わずか9段の階段が、上下階の家族を緩やかにつなぐ
左右非対称の切妻屋根が、スタイリッシュな印象のI邸。コンパクトな玄関ホールからLDKに入ると、屋根の形に沿った斜めの高い天井をもつ、気持ちのいい大空間が広がる。 「以前の住まいは、個室がなくて家族がいつも一緒でした。広々したLDKが夢でしたが、家族の一体感は無くしたくなくて、個々に籠もりすぎない空間づくりを目指しました」とIさんは語る。
Iさん一家は、ご夫婦と中学生の娘さん、小学生の息子さんの4人家族。新築にあたって銘々の子供部屋は作ったが、建物をスキップフロア形式にすることで、空間どうしのつながりを大事にした。南側全面を吹き抜けるLDKが家の半分を占め、北半分の上階は子供部屋、下階は納戸という作り。LDKと子供部屋をつなぐ階段はわずか9段なので、上下階に分かれていても距離感は非常に近い。
「子供部屋のLDK側の壁には窓もあるので、お互いの気配がすごく伝わるんです。晩ご飯の準備ができたら子供たちはすぐ降りてくるし、私も物音で子供が宿題をしているか遊んでいるか分かりますね」と微笑む奥様。子供部屋の天井は低めだが、パブリックスペースであるLDKの天井が4m近くあるぶん、メリハリが利いていて、子供たちも基地のような感覚で楽しんでいるそう。